1月1日。始めなくていい朝に──Netflixで過ごす“何もしない正解”
🌅 はじめに──元日は「始める日」じゃなくてもいい
1月1日。
世の中は一斉に「スタート」の空気に切り替わる。
新年の目標。
新しい自分。
心機一転。
でも、僕は毎年思う。
昨日までの自分が、たった一晩で変わるわけがない。
元日の朝は、ほんとうは少し鈍い。
去年の疲れが皮膚の内側に残っていて、
胃の奥に「まだ終わってない気持ち」が沈んでいる。
なのに世界だけが、軽やかに「おめでとう」を言う。
そのズレが、いちばんしんどい。
だから今日は、背中を押す作品を選ばない。
選びたいのは、何もしなくていい時間を肯定してくれる物語だ。
🎬 1/1 本日のオススメ|Our Souls at Night
今日の1本は、Netflix映画『Our Souls at Night』。
派手な事件も、人生の大逆転もない。
舞台は静かな町。
年齢を重ねた男女が、夜になると、ただ隣の家を訪ね、
同じベッドで眠る。
それだけの話だ。
でも、この「それだけ」が、元日の朝に効く。
新年の空気が求める“前進”に、無理に乗らなくていいと教えてくれるから。
✅ 黒川式・元日の視聴姿勢
大きい音は要らない。部屋の灯りを少し落として、スマホは裏返す。
この映画は「集中して理解する」より、「同じ空気に浸かる」ほうが深く届く。
🛏 この映画が肯定するのは「動かない人間」だ
『Our Souls at Night』の登場人物たちは、人生をやり直そうとしない。
夢を追いかけるでも、若返るでも、社会に復讐するでもない。
ただ、夜に眠れない。
それだけが、十分にリアルだ。
人は、年を重ねるほど眠れなくなる。
理由のない不安が増える。
体より先に、心が冷える夜がある。
この映画は、その冷えを“イベント”にしない。
盛り上げもしない。説教もしない。
ただ、「そういう夜がある」と置く。
だから観ている側は、ふっと肩の力が抜ける。
「自分だけじゃない」と思える。
元日の朝に必要なのは、たぶんこの感覚だ。
🕯 元日は“祝う日”じゃなく、“整える日”でもいい
元日は、祝う日。
でも同時に、整える日でもいいと思う。
整えるというのは、前向きになることじゃない。
気合を入れることでもない。
ただ、呼吸を取り戻すこと。
去年に置き去りにした感情を、乱暴に片づけないこと。
「このままの自分」を、もう一晩だけ許すこと。
『Our Souls at Night』が優れているのは、
その“許し”の速度が、とても遅いところだ。
一気に救わない。
急に元気にもしない。
でも、確実に、夜の温度を1度だけ上げる。
🎧 いちばん沁みるのは、セリフより「静けさ」のほう
この作品の魅力は、名言じゃない。
泣かせる音楽でもない。
むしろ、会話の“間”や、言い直しや、沈黙が美しい。
人は本当に大事なことほど、上手に言えない。
その不器用さが、きちんと映っている。
元日の朝、テレビの音が少し騒がしく感じる人ほど、
この映画の静けさが、薬のように効くはずだ。
癒しは、派手な感動じゃなくて、音量の小ささから始まる。
僕はそう信じている。
🛋 この映画は「観る」というより「一緒に過ごす」
『Our Souls at Night』は、
物語を追う映画ではない。
隣に座って、
同じ夜をやり過ごす映画だ。
会話が途切れる瞬間。
視線が合わない沈黙。
言いかけて、やめてしまう言葉。
そういう「説明されない時間」が、画面の中に多く残されている。
だからこの映画は、
集中して観ようとすると、少し退屈に感じるかもしれない。
でも、元日の朝に必要なのは、刺激じゃない。
誰かと同じ空気にいる感覚だ。
テレビの前で、
コーヒーが冷めるのを気にしながら、
ただ流している時間。
その「何も起きない感じ」こそが、
この映画のいちばん贅沢な部分だと思う。
🌤 元日の朝と、この映画の相性
1月1日の朝は、一年でいちばん静かな朝だ。
街もSNSもニュースも、どこか現実味が薄い。
そんな非現実感に、『Our Souls at Night』はとてもよく馴染む。
観ているうちに、時間の進み方が緩やかになる。
「何かしなきゃ」という焦りが、画面の外へ遠ざかっていく。
この感覚は、いわば“焦りのデトックス”だ。
🕰 なぜ元日は「人生を考えすぎてしまう」のか
元日という日は、不思議だ。
時計の針はいつも通り進んでいるのに、
人の思考だけが、やけに大きな単位で動き出す。
「この一年をどう生きるか」
「今の仕事でいいのか」
「このままで大丈夫なのか」
普段なら棚上げにしている問いが、
1月1日だけは、正面からこちらを見てくる。
だから元日は、前向きになれない自分を責めやすい日でもある。
『Our Souls at Night』が元日に効く理由は、
この映画が人生を“整理しよう”としないからだ。
答えを出さない。
決断を急がない。
「わからないまま眠る夜」を、ちゃんと肯定する。
元日には、その態度こそが必要だと、僕は思っている。
🧭 観終えたあとに残るのは「小さな正解」
観終わっても、人生が変わるわけじゃない。
世界が明るく見えるわけでもない。
でも、元日の朝に大事なのは、そんな劇的な変化じゃない。
「今日は何もしなくていい」
「この静けさを、ちゃんと味わっていい」
そう思えるだけで、もう十分だ。
新年の正解は、いつも大きく見えすぎる。
目標とか、挑戦とか、成長とか。
でも本当は、もっと小さくていい。
この映画は、その“小さな正解”を手渡してくる。
それが、元日にふさわしい。
🧭 12/31から1/1へ──思想のバトン
12/31に伝えたのは、「選ばなくていい」という感覚だった。
そして1/1は、「始めなくていい」という肯定だ。
年が変わったからといって、人生まで切り替える必要はない。
この映画は、その事実を静かに、でも確かに伝えてくれる。
元日は、何かを始める日じゃなくていい。
ただ、ちゃんと休む日でいい。
『Our Souls at Night』は、
「何もしない時間」に価値があることを、静かに思い出させてくれる。
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🌱 まとめ──新年は、静かに始めてもいい
1月1日に必要なのは、やる気でも、目標でもない。
まずは、自分のペースを取り戻すことだ。
『Our Souls at Night』は、その最初の一歩を、
“動かずに踏み出す”ことを許してくれる映画だと思う。
今年は、急がなくていい。
── 黒川 煌
📚 補足・免責
※配信状況は地域・時期により変更される場合があります。
※本記事はNetflix配信作品をもとに、映像批評家・黒川 煌の視点で構成しています。



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