12月31日。今年を“うまく終わらせなくていい夜”に──Netflix映画『Marriage Story』
🌙 はじめに──大晦日は、答えを出すための夜じゃない
12月31日。
一年の終わりは、いつも「区切り」や「整理」を求められる。
今年をどう総括するか。
来年をどう生きるか。
けれど正直、
そんなことを考える余裕がない人も多いはずだ。
うまく言葉にできなかった一年。
何かを決断したわけでも、
乗り越えた実感があるわけでもない。
それでも、時間だけは静かに流れていく。
だから今日の「本日のオススメ」は、
背中を押す作品でも、前向きになれる作品でもない。
答えを出さなくていい。
整理できなくても、そのままでいい。
そんな夜に、そっと寄り添ってくれる物語を選んだ。
🎬 本日のオススメ|Marriage Story
『Marriage Story』は、
よく「離婚を描いた映画」と紹介される。
けれど、この作品の本質はそこじゃない。
これは、
愛していた時間が、どのように現在へ残り続けるのか
その過程を描いた物語だ。
別れを選んだふたり。
でも、だからといって、
過去が消えるわけでも、感情が終わるわけでもない。
むしろ別れの過程で、
なぜ惹かれ合ったのか、
どこですれ違ったのか、
本当は何を言いたかったのかが、
はっきりと浮かび上がってくる。
この映画は、
「終わり」を描きながら、
関係性は完全には終わらないという現実を、
何度も静かに突きつけてくる。
🎭 大人になったからこそ刺さる感情
『Marriage Story』が特別なのは、
感情をわかりやすく処理しないところにある。
怒りもある。
後悔もある。
どうしようもない悲しみもある。
けれどこの映画は、
「どちらが悪いか」「どちらが正しいか」に回収しない。
あるセリフが、ずっと心に残る。
I wish I didn’t love you so much.
憎しみじゃない。
否定でもない。
愛してしまったこと自体が、痛みになる瞬間。
それは、若い頃の恋愛映画では、
なかなか描かれない感情だ。
誰かを深く好きになったことがある人ほど、
この映画は、静かに胸の奥へ入り込んでくる。
📖 「愛が終わる」のではなく、「関係が変わる瞬間」を描く
多くの恋愛映画や夫婦映画は、
「別れ」や「再生」をドラマチックに描こうとする。
けれど『Marriage Story』は、
そのどちらにも明確な答えを出さない。
この映画で描かれるのは、
愛が消える瞬間ではなく、関係性が“質を変えてしまう瞬間”だ。
好きだったはずの相手が、
少しずつ「理解できない存在」に変わっていく。
それでも、完全に他人にはなれない。
この曖昧さこそが、
大人の人間関係のリアルであり、
この映画が12月31日に観るべき理由でもある。
🧠 なぜ『Marriage Story』は「正解」を提示しないのか
多くの映画は、
観終わったあとに「理解できた」という感覚を用意する。
けれど『Marriage Story』は、
あえて理解しきれない状態で終わる。
なぜ、あの選択に至ったのか。
別の未来はなかったのか。
答えは、最後まで明確に示されない。
それは、この物語が
「人生は後から意味づけされるもの」だと知っているからだ。
12月31日という夜に、
この“不完全さ”を受け取れるかどうか。
それが、この映画を観る価値になる。
🕰 「あの頃に戻れない」と知っている人へ
『Marriage Story』は、
「やり直し」の物語ではない。
かつては確かに、
うまくいっていた時間があった。
笑っていた日々があった。
でもこの映画は、
「あの頃に戻れないこと」を前提に物語を進める。
だからこそ、優しい。
無理な希望を与えない。
年の終わりにこの映画を観ると、
「過去を取り戻す必要はない」
そんな静かな納得が、心のどこかに残る。
🪟 仕事も家庭も、うまくやれない人間のリアル
主人公たちは、
決して無能でも、冷酷でもない。
仕事には情熱があり、
家族を大切にしようとしている。
それでも、
すべてを同時にうまくやることはできない。
『Marriage Story』が突きつけるのは、
「どちらも大切にしたい人ほど、失うものが増える」という現実だ。
年末にこの映画が沁みるのは、
今年一年、何かを選び、何かを諦めてきた人ほど、
この感情に心当たりがあるからだ。
🕯 12月31日という夜と、この映画の相性
大晦日は、区切りの夜でありながら、
同時に「何も決めなくていい夜」でもある。
年は変わる。
でも、気持ちがきれいに切り替わるわけじゃない。
『Marriage Story』は、
その宙ぶらりんな感情を、無理に整理しない。
ちゃんと終われなかった関係。
言えなかった言葉。
まだ残っている感情。
それらを、
「それでもいい」と肯定してくれる。
12月31日にこの映画を観ることは、
総括でも、決意表明でもない。
ただ、
今の自分を、そのまま見つめる時間を持つこと。
それだけで十分だと、
この映画は静かに教えてくれる。
12月31日は、前向きにならなくていい。
何かを決めなくても、整理できなくてもいい。
『Marriage Story』は、
その中途半端な感情に、ちゃんと居場所をくれる映画だ。
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🔥 この映画が「しんどい」と感じるなら、それは正しい
『Marriage Story』を観て、
「つらい」「観るのがしんどい」と感じたなら、
それは間違った反応じゃない。
むしろ、この映画は
人生の痛点を正確になぞるからこそ、しんどい。
自分にも、似たような瞬間があった。
言えなかった言葉がある。
取り返せなかった時間がある。
その記憶に触れるから、
心がざわつく。
でも、12月31日にこの映画を観る意味は、
「しんどさを消すこと」じゃない。
そのしんどさと一緒に、年を越してもいいと知ることだ。
🌌 観終えたあとの沈黙こそが、この映画の本編
『Marriage Story』は、
観終わった瞬間に感情が爆発する映画ではない。
むしろ、
エンドロールが流れ終わったあと、
しばらく何もしたくなくなる。
スマホを触る気にもならず、
次の作品を探す気にもならない。
その静かな時間こそが、
この映画が用意した“余白”だ。
12月31日の夜、
この余白を持てるかどうかで、
年の終わりの質は大きく変わる。
🌌 まとめ──今年を「うまく終わらせなくていい」
一年を振り返って、
何かを成し遂げた人もいる。
何も変わらなかったと感じている人もいる。
でも、どちらであっても、
12月31日に必要なのは「結論」じゃない。
『Marriage Story』は、
人生は整理できないまま続いていく、
その事実を、優しく肯定する。
この映画を観終えたあと、
無理に前向きにならなくていい。
ただ、静かに年が変わるのを待てばいい。
── 黒川 煌
📚 補足・免責
※配信状況は地域・時期により変更される場合があります。
※本記事はNetflix配信作品をもとに、映像批評家・黒川 煌の視点で構成しています。



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